尾形光琳作 国宝 紅白梅図屏風の特別さ

2011年に描法再現に取り組ませてもらってから14年が過ぎ、再び、尾形光琳作 国宝 紅白梅図屏風についてのNHK-BS番組にかかわらせていただきました。(上記画像は、番組映像として我が家で実験した結果のテストピースを撮影している様子です)

いただいた役割は、「紅白梅図屏風」をより深く鑑賞する手がかりを提案すること!、何名かの「解剖医」のひとりとして登場です。以前の描法再現への取り組み、制作してわかったことなどをお話する役割とのことでした。ちょうど私が今年銀箔を使った表現について取り組んだこともあり、打ち合わせの中で、以前積み残していた実験も含めて行うこととなりました。このあたりは、ひとつ前の記事、以下にまとめています。

紅白梅図屏風 流水表現の実見2025とTV番組 11月30日

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NHK-BS 解剖!マスターピース 尾形光琳「紅白梅図屏風」

【BS】12月  4日(木)午後8時00分~午後8時44分

【BS】12月10日(水)午前9時45分~午前10時29分(再)

4日の放送が先程終了しました。流石!番組制作プロの方たちです。私のグダグダなところをスッキリ仕上げてくださっていました。感謝!!。

番組では、ご覧いただいた通り、「湯の花」(硫黄)を気化させ、燻す手法によっても銀と黒のコントラストある2011年に行ったような結果が実現できました。


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さて、、、、森山パートの裏話。

撮影日は、晴れ。とても良い天気になりました。午前は、リハーサル用として同じ大きさで準備した実験ピースを屋外に持ち出し、本番と同じように燻してテストしました。硫黄を気化させるための熱によって反応ボックスのビニールが溶けそうになったおりの対処についても確認することが出来ました。そして出来上がったのは、以下結果画像です。


放送と異なりますね^^;。うぐいす色のような色が基本となり、部分的に少し赤みを含んだ箇所があるといった結果となりました。反応経過では、それまでの事前実験で想定した通り、金色が出たり、ブラウンになったり、青い色が出たりと想定通り、最後どこまで行くかと思っていたらこの色で反応が止まったのです。

これまで個人的に行っていた実験との違いは、使用した銀箔でした。2011年の描法再現の時に使用した銀箔の厚み、10000分の1mmを模して中村金箔さんに作ってもらった銀箔を今回使ったのです。もう少し、取り出しを早い段階で行っていれば、よりコントラストの強い結果物になったかもしれません。硫黄の燃焼を最後まで行うことで、少し銀色部分がくすんだ状態になることも想定していたのですが、結果はそうはなりませんでした。

薄い銀箔は、現在一般に売られている銀箔よりも、燻した折の反応が早いことはこれまでの経験でわかっていたのですが、もしかしたら光琳の行ったおりもそうではなかったか(当初は色が違った、そして経年変化により、現状となった)といったことが考えられる実験になるだろうとスタッフの方と確認し、午後、同じように本番に挑戦したのです。

しかし、本番では・・・・番組で紹介された結果となりました。

想定外・・・・の結果、ほぼ漆黒と言って良い黒と、銀のコントラストが実現したのです。これまでの燻す手法における私の実験に無い結果でした。途中で反応色を見るための取り出しピースも想定外の色でした。結果的に2011年に行った制作と同じような結果が「湯の花」を用い、本当に燻す(硫黄を燃やす)手法でも可能だということが実証出来たわけです。

しかし、私自身としては、何故?という疑問が湧いてきました。

使った銀箔は同じものです。午後の本番(撮影)で異なったのは、午後、太陽が顔を出し直射日光が反応BOXを照らしました。急激に気温が上がったことが考えられます。また気温、ボックス内温度の上昇による地面からの湿気も反応ボックス内に加わったかもしれません。


参考)上記画像は、現在、今治市大三島美術館で開催中(2025年12月7日まで)の森山知己「和様に倣う」展関連資料として並べている流水部実験、銀と黒の状態からその後、時の経過後を作ってみたものです。

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さて、、、、、、深緑に銀色の流水も面白い表現になる。実は、せっかくならこの反応を使った新しい絵を描いてみるのも面白いかもと思い準備したパネルがありました。(来年1月に今年から始まったグループ展「日本画10人展」の第二回が東京銀座 永井画廊で予定されています。その出品作準備のためのものです)。ある程度の大きさで銀箔と金箔を最初から張り込んだ状態として、実際に燻す手法で描いてみるのはどうかと思ったのです。室とか蔵を使う手法は取れませんが、今回の撮影でのモヤモヤとした疑問について確認もしてみたいですし・・。


画面の大きさはP30号です。縦使いで構成しました。使用した銀箔は金沢の中村金箔さんが作ってくださった江戸の銀箔を模して作ったものを使用しています。番組で紹介したのと同じ濃度、配分のドーサ液を使って流水を描きました。
(話は違いますが、流水の描線を描くおり、少し違和感を感じました。当時の筆との変化も感じたのです・・・・これはまた別の話・・・。)


反応には同じ「湯の花」を用いています。反応BOXは撮影と同じものを使いました。密閉するビニールシートの使い方を工夫しています。金箔を貼った箇所全体をボックス内に収めることができず、外部露出部分もあり、それも結果的に金箔面の興味深い反応後の状態、違いを知ることになりました。


反応作業は夜!、ここは高原!、この季節の日中との気温変化を忘れていました。寒いくらいに冷え込んだのです。ボックス内と外ではかなりの温度差となりました。煙るボックス内を覗いて色を確認、目立った変化がなくなったので一度取り出して確認することにしました。


ブラウンの渋い感じになりました。均一できれいな反応です。金箔面にも硫黄が付着したのかボックス内部にあった部分とそうではない部分で表面の質感が変わったのを確認しました。ブラウンの流水では・・・・、金箔も質感が途中で変わるのはなんとも・・・・。ということで、反応作業を続けてみることにしました。ビニールを伸ばし、反応ボックスは少し容積が大きくなりますが、パネル面全てが気体に触れるようにしたのです。


より深い反応を!と求めて行った結果です。金箔面も色が少し変わり付着物もあるようです。燻すことでこのようにもなることがわかりました。渋い流水も良い感じです。

全面にドーサ液を塗って被膜を作ることにしました。塗っていると画面表面に何らかの付着物、刷毛の当たり方に違和感があったので、ドーサ液を使って付着物を可能な限り洗い取り、そして表面を落ち着かせました。


たらし込みを使って白梅の幹の部分、枝を描きました。

画面の金箔も落ち着きました。遠い記憶となり定かではありませんが、2011年の当時、MOA美術館で間近に紅白梅図屏風を実見させていただいた時の記憶、あのおり感じた表面・質感を感じられたようにも思いました。

実物の金箔部への硫黄の残留測定結果などと比較したら、もしかしたら硫化反応手法についての確認ができるかもしれないと思ってみたり。

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番組撮影の本番では、期せずして十数年前に試みたような「黒い水流」が出来上がりました。

はたしてリハーサルと本番の時間経過による日差しの変化が原因だったでしょうか。それとも気温上昇に伴う温度変化、湿度変化の影響だったのか。それまで撮影がうまくいくよう準備してきた森山としては、出た結果は正直ちょっと複雑な気分でした。しかし、「湯の花」を使い、「燻す」ことで、結果として「黒い水流」が目の前に現れたのです。十数年前の取り組みが「実際に燻すことで実現できる」証明になりました。

そしてその後、撮影時のことを考慮しつつ、少し大きな作品に取り組んでみたのです。季節は進み気温はずっと下がりました。反応作業は太陽の影響を受けにくいと思われる夕方に行いました。

昔、MOA美術館で実物を見せていただいた折の表面に似た状態が現れたようにも思います。
また、それだけではなく流水部の銀色部分も黒くなりました。赤褐色系統ではなく、無彩色の系統です。よって実物は、当初はやはり銀色だったのではと思われました。反応に必要な硫黄は画面全体表面に付着していると考えられます。時の経過とともに現在のように変化したというのが順当なように思いました。

結果的にですが、番組本番の撮影で現れた結果が一番それらしいものではなかったかと今は思っています。


燻す手法によって、狙ってあの紅白梅図屏風の黒い水流を実現することは大変難しい。
ましてやあの大きさで行うことは。
季節や温度、硫黄ガスの濃度などを完璧に再現するのは至難の業かと思います。

尾形光琳本人もそうではなかったか。

だからこそ、あの!紅白梅図屏風は特別なのです。他の類例が残されていない理由も推して知るべし。紅白梅図屏風はだからこそ特別でカッコいいのです。

そんなことを思いました。
番組をご覧いただいた皆様、ご視聴ありがとうございました。

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第2回「現代日本画10人展」
2026年1月9日(金)から23日(金)まで
10:00から18:00 日曜・祝日休廊
tel.03-5545-5160


「流水紅白梅図」2025年制作 P30号 森山知己 出品予定です。
加えてF6号の同じ技法を使った作品も出品展示予定です。

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