紅白梅図屏風 流水表現の実験2025とTV番組

2011年、ご縁をいただき、熱海MOA美術館が所蔵する尾形光琳作 国宝 紅白梅図屏風の倣作に取り組む事が出来ました。そしてその取組では、私の問である「日本画とはどんな絵画なのか?」について考える折の多様な出会いや気づきを与えてくれました。一連の出来事、実験については以下にまとめて紹介しています。

国宝 尾形光琳作 紅白梅図屏風の描法再現 記録

2025年の今年、これも不思議なご縁から倣作に取り組んだ大阪 天野山金剛寺所蔵の 国宝 日月四季山水図屏風。すでに2022年に右隻を描いていたのですが、対になる左隻も描いて一双にと制作を行いました。この制作を行うに当たって、光琳の紅白梅図屏風技法再現のおりに取り組んだ銀箔硫化表現についてを再考することになりました。どちらにも銀箔が使用されており、制作されてからの長い年月の間に、どんな変化があったのか、はたして描かれた当時はどのような姿であったのかについては想像するしか無い部分があるのです。

日本の絵画を代表する存在。どちらも私の心を捉えて離さない特別な絵画です。ワクワクする取り組みになった事は言うまでもありません。

上記2つの倣作は、現在、今治市大三島美術館での「和様に倣う」と題した展覧会(2025年12月7日まで)に出品、展示しています。また以下で紹介するのと同様の実験結果サンプルも参考展示しています。

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今年取り組んだ日月四季山水図屏風・左隻の倣作については、当初、紅白梅図屏風の倣作と同様に銀箔の硫化による表現を考えたことから、紅白梅図屏風倣作のおりに積み残していたことも含めて取り組んだのです。

問1)銀箔硫化を使った表現について( 倣日月四季山水図屏風制作のまとめに紹介)

問2)紅白梅図屏風倣作のおり、銀箔硫化に用いたのは、現代の精製された硫黄でした。江戸時代、それより昔にこんな純粋な硫黄が手に入ったのだろうか、別の選択肢は?

問3)気体による硫化反応の確認(黒色だけではない変化色の存在)

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問1)の実験について、直接反応(硫黄粉を銀箔の上に撒く・3日の反応時間)に対して反応結果が早く得られる手法として硫黄の気化(長くても1時間)を用いてのテストを選択しました。今年、銀箔硫化表現の技法講座箔の厚みと硫化表現 日本美術家連盟主催・公開講座)を引き受けたこともあり、その講座準備として実験用のボックス、熱源として電熱器を使用した事前実験を行いました。慣れた素材である硫黄粉を使って事前に一回テストを行い想定通りの結果が出たことから、2025年9月24日 講座を実施。しかし、結果は想定通りではありませんでした。多様な色が再現できるはずだったのに金色で反応が止まってしまったのです。

事前テストと異なったのは、参加者増に対応するために反応BOXを大きくしたこと(容積が変わりました)でした。硫黄粉の使用量が事前テストのまま6gだったことも問題だったのかもしれません。また、電熱器上方のビニールが溶けそうになり、電熱器を早めに止めたことです。このため、まだ気化できる硫黄が残っていたのかもしれません。このあたりを反省しながら岡山への家路につきました。

・・・・なんと!!その帰りの新幹線車中 一通のメールが届きました。

尾形光琳の紅白梅図をテーマとしたNHKBS番組出演への依頼
だったのです。リクエストは、「描法再現紅白梅図屏風」を制作して分かった光琳作品の魅力を語ること。何人かの登場者のうちの一人です。・・・岡山に到着するまで新幹線車中のメールのやり取りは続き、実験も加えて取り組むことになったのです。

++++++++++++++++++++ 実験2025 ++++++++++++++++++++

問2)について

現在、一般に売られている「湯の花」、なかでも硫黄を含む注意:もちろん硫黄を成分に含まない温泉もあります)温泉の成分が固まって出来たモノを使うことを考えました。

「湯の花」を撒く直接反応による硫化は問題なく成功しました。反応時間は3日としました。

3日が経過した10月6日


上記の湯の花粉を取り払うと


問題なくエッジのシャープな反応に成功していました

問3)について

硫黄を気化させ反応させる実験でも上記と同じ「湯の花」を使用して実験、もちろん成功しました。また、以前の実験では硫黄粉の下に敷いた新聞紙に着火する方法で行いましたが、今回は電熱器を使って硫黄を温める手法を使うことにしました。

実験は屋外で行いました。(実験を行う場合は、実施する自身が発生したガスを吸い込まないように、また発生する匂いも含めて近隣の方々に迷惑とならないようにくれぐれも安全に注意し、自己責任で行うように

実験を行う上での注意点として

ガスが実験のおり想定外に漏れないようにする。実験後もガスを吸い込まないように、発生させたガスを一度に大量にボックス外に出すなど行わないよう安全に注意して行う。

反応ボックス(ガーデニング用グリーンのポールとその組立パーツを使用、透明なビニールの使用熱に強いものを使うこと!))については、反応時間によっては、電熱器の熱が上方に向い、ビニール上面を溶かしてしまう危険性があります。上面ビニール表面に溶けそうな兆候が見られたら、迷わず水に浸したタオルなどを事前に準備しておき、電熱器の上あたり、ビニールの上に乗せてビニール表面を冷却する(これで溶けて穴の空くことを防ぐことが出来ます・最初から置いておくのもありかも・・中の変化が見えにくくなりますが・・・)。

反応ボックス・ガーデニング用グリーンのポールとその組立パーツを使用
密閉用の透明のシートは、温度上昇に強いビニール系を用いる


BOXの容積に関する情報、また使用する「湯の花」の量など、白い紙に覚書

時間経過と共に色の変化を確認し、その都度、実験ピースを取り出す

実験ピースそれぞれの反応時間(ボックスから取り出した時間)
左 短い 9分 > 18分 > 26分 > 36分 長い 右

:左から二枚目、画像では紺色、もしくは紫色にも見えますが、これは光線の具合です

上記の実験に続いて反応時間を伸ばしたピースを作りました(50分)


以前の実験より、思いの外、銀色と反応色のコントラストもよく出来ました。ふと考えると、26分、36分、少し長くして50分の反応色でも紅白梅図中央の水流のイメージを満たすものができそうに思えてきました。銀色の上に出た濁りもまた水流らしいといえばらしいかもしれません。今回は反応色として止めることが出来ませんでしたが、青い背景の流水も可能なのです。

そして・・・・・NHKの番組内でこの実験を行う事になりました。ポイントはこの流水が毛筆を使って描かれたものであること。その筆使いが重要であるということ。


番組内での実験は、私が作った実験ピースよりもいくらか大きいサイズでということになり、F6号のサイズで行うことになりました。そしてテストでは現在一般的に売られている厚みの銀箔を使用しましたが、この本番では特別に2011年制作のときに用いた薄い銀箔、金沢の中村金箔さんに作ってもらった厚みの銀箔を使用しました。テストピースも含めて2枚準備しました。また今回は最初から金箔も張り込んだ状態で硫黄ガスによる反応を行います。全体を燻すことによって、銀箔を貼った箇所全て、また金箔部分にも硫黄の付着を行うことになるのです。光琳が制作した当時を想定するなら、蔵とか穴に反応させる絵を入れ、火鉢のようなものに火を起こし、湯の花もしくは硫黄をその中に入れて熱し気化させ、燻したのではと思うのです。銀箔硫化の効果発見は、もしかすると蔵の殺菌のための燻蒸、偶然の出来事だったかもしれません。2011年以後の実験によって、実物の紅白梅図を拝見した折に感じた紅白梅図表面の様子に近いいくつかの要素を確認しています。この影響がその後の300年にどのような変化をもたらしたか、またその可能性を計るポイントになるかもしれないと思っています。

番組内ではこの銀箔部分にドーサ液を使って流水を描きました。そして、実際に「湯の花」によって燻しました。結果については番組でご確認ください。

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解剖!マスターピース

尾形光琳「紅白梅図屏風」

NHK【BS】12月  4日(木)午後8時00分~午後8時44分

NHK【BS】12月10日(水)午前9時45分~午前10時29分(再)

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★番組放送後に、この続き、私の感想などを次の記事としてアップしようと思っています。

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