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尾形光琳と乾山 黒い水流の謎

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 岡山市にある美術書専門の古書店、 月吠文庫 の主人である藤原義人さんに一冊の本を用意していただきました。「別冊太陽」「琳派百図 光悦・宗達・光琳・乾山」、1974年春号です。表紙からして尾形光琳の紅白梅図屏風です。私がきっと必要とするだろうと思われたとのことです。 琳派にまつわることがたくさん掲載されているのはもちろんですが、私の今回の興味は、緒方深省(おがたしんしょう・尾形乾山のことです)覚書・乾山と光琳 と、題した水尾比呂志さんの文章が掲載されていたことです。 NHK-BSの番組出演もあり、尾形光琳作 国宝 紅白梅図屏風の中央に流れる黒い水流の謎に再び取り組み、その手法について実験した話はすでに紹介しました。   紅白梅図屏風 流水表現の実験2025とTV番組 尾形光琳作 国宝 紅白梅図屏風の特別さ そして、その番組の裏話とともに紹介した実験ピースが上記画像です。 この銀箔の硫化の様子、フリア美術館所蔵の光琳作 群鶴図屏風に見られる流水に、もしかしたら近いのではないかと思っています(実際に見て比較したわけではないのであくまで推測ですが)。この取り組み、画像を Benjamin Gordon さんに紹介したところ、即座にこの燻す手法が粉を撒く手法よりもずっと正当性があるのではないか、そして、「番組では、尾形乾山に触れましたか?」と質問されたのです。 そう、ここで冒頭の書籍につながるのです。 水尾比呂志さんが紹介する文章 緒方深省覚書 の中で乾山の言葉として、(文・引用)兄は江戸滞在を続け、津軽越中守様のお屋敷に出入りして揮毫した。あの紅白梅の屏風や草花の巻物はその時描いたのである。これは私も下江してから見ることができたが、屏風は息を呑むほどのみごとさで、なかんづく中央を流れる水紋は、大胆不敵、傍若無人の筆力であった。布置形象と言い渦線の力強さと言い、銀泥と色料のあしらひと言い、まことに宗達に太刀打ちして負けをとらぬ名作と讃えても過ぎることはない。草花の図巻も没骨の妙味を駆使した佳作であって、光琳がいかに宗達をよく究めたかを如実に物語っていた。(引用・終わり) この文章を読む限り、乾山は光琳の紅白梅図制作に直接関わっていないことがわかります。 しかし、 Benjamin Gordon さんの言葉:「自分には乾山と光琳の二人が協力して屏風を窯に入れ...

尾形光琳作 国宝 紅白梅図屏風の特別さ

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2011年に描法再現に取り組ませてもらってから14年が過ぎ、再び、尾形光琳作 国宝 紅白梅図屏風についてのNHK-BS番組にかかわらせていただきました。(上記画像は、番組映像として我が家で実験した結果のテストピースを撮影している様子です) いただいた役割は、「紅白梅図屏風」をより深く鑑賞する手がかりを提案すること!、何名かの「解剖医」のひとりとして登場です。以前の描法再現への取り組み、制作してわかったことなどをお話する役割とのことでした。ちょうど私が 今年銀箔を使った表現 について取り組んだこともあり、打ち合わせの中で、以前積み残していた実験も含めて行うこととなりました。このあたりは、ひとつ前の記事、以下にまとめています。 紅白梅図屏風 流水表現の実見2025とTV番組 11月30日 ------------------------------------------------------------------------------------------ NHK-BS 解剖!マスターピース 尾形光琳「紅白梅図屏風」 【BS】12月  4日(木)午後8時00分~午後8時44分 【BS】12月10日(水)午前9時45分~午前10時29分(再) 4日の放送が先程終了しました。流石!番組制作プロの方たちです。私のグダグダなところをスッキリ仕上げてくださっていました。感謝!!。 番組では、ご覧いただいた通り、「湯の花」(硫黄)を気化させ、燻す手法によっても銀と黒のコントラストある2011年に行ったような結果が実現できました。 ------------------------------------------------------------------------ さて、、、、森山パートの裏話。 撮影日は、晴れ。とても良い天気になりました。午前は、リハーサル用として同じ大きさで準備した実験ピースを屋外に持ち出し、本番と同じように燻してテストしました。硫黄を気化させるための熱によって反応ボックスのビニールが溶けそうになったおりの対処についても確認することが出来ました。そして出来上がったのは、以下結果画像です。 放送と異なりますね^^;。うぐいす色のような色が基本となり、部分的に少し赤みを含んだ箇所があるといった結果となりました。反応経過では、それまでの事前実...

紅白梅図屏風 流水表現の実験2025とTV番組

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2011年、ご縁をいただき、熱海MOA美術館が所蔵する尾形光琳作 国宝 紅白梅図屏風の倣作に取り組む事が出来ました。そしてその取組では、私の問である「日本画とはどんな絵画なのか?」について考える折の多様な出会いや気づきを与えてくれました。一連の出来事、実験については以下にまとめて紹介しています。 国宝 尾形光琳作 紅白梅図屏風の描法再現 記録 2025年の今年、これも不思議なご縁から倣作に取り組んだ大阪 天野山金剛寺所蔵の 国宝 日月四季山水図屏風。すでに2022年に右隻を描いていたのですが、対になる左隻も描いて一双にと制作を行いました。この制作を行うに当たって、光琳の紅白梅図屏風技法再現のおりに取り組んだ銀箔硫化表現についてを再考することになりました。どちらにも銀箔が使用されており、制作されてからの長い年月の間に、どんな変化があったのか、はたして描かれた当時はどのような姿であったのかについては想像するしか無い部分があるのです。 日本の絵画を代表する存在。どちらも私の心を捉えて離さない特別な絵画です。ワクワクする取り組みになった事は言うまでもありません。 上記2つの倣作は、現在、今治市大三島美術館での「和様に倣う」と題した展覧会(2025年12月7日まで)に出品、展示しています。また以下で紹介するのと同様の実験結果サンプルも参考展示しています。 ----------------------------------------------------------------------------------------------- 今年取り組んだ日月四季山水図屏風・左隻の倣作については、当初、紅白梅図屏風の倣作と同様に銀箔の硫化による表現を考えたことから、紅白梅図屏風倣作のおりに積み残していたことも含めて取り組んだのです。 問1)銀箔硫化を使った表現について( 倣日月四季山水図屏風制作のまとめ に紹介) 問2)紅白梅図屏風倣作のおり、銀箔硫化に用いたのは、現代の精製された硫黄でした。江戸時代、それより昔にこんな純粋な硫黄が手に入ったのだろうか、別の選択肢は? 問3)気体による硫化反応の確認(黒色だけではない変化色の存在) ++++++++++++++++ 問1)の実験について、直接反応(硫黄粉を銀箔の上に撒く・3日の反応時間)に対して反応結果が早く得られる手法とし...

沈黙の蛸 絹本彩色 2001年制作 

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 1996年に東京から岡山県の吉備高原に転居しました。自然が身近に、そして日常の暮らしとなることを願ってのことでした。また、東京より広い制作空間を得ることも目的でした。 高校まで暮らした海の側とは違った自然、越してきたのは標高400m程の高原です。越してきてから数年、冬になると東京からの友人と共に倉敷市児島の下津井にタコ釣りに出かけました。子供時代の岸からの釣りではなく、小さな船に乗っての釣りです。知人から名人と呼ばれる猟師さんを紹介してもらっての釣りは、毎年、驚くほどの釣果を上げることができました。のんびりとした船上からの眺め、瀬戸大橋、島影、海、波、そして釣り上げた蛸。当時、蛸をモチーフにすることはある意味必然でもありました。 蛸(たこ)の夜 7/17//2001 制作作品 蛸を題材とした制作について、当時紹介しています。1995年制作の「蛸の夜」、東京時代に描いたのとの変化を感じます。現在開催中(2025年12月7日まで)の大三島美術館での「和様に倣う」展でもその後蛸を描いた作品(海中図2011年制作)が展示中です。 さて、この「沈黙の蛸」(絹本彩色 2001年制作 45cm✕20cm)が近々東京銀座の 永井画廊 電話 03-5545-5160 で展示されます。 Xmas Gift展 三條弘敬コレクション 2025年12月12日(金)から24日(水)10:00〜18:00 日曜休廊 知る人ぞ知る三條弘敬さん、5人の画家(河嶋淳司、千住博、末永敏明、福本正、福井江太郎)を40年に渡りプロデュースしてきた方です。実は、三條さんとはずっと東京時代よりご縁があり、森山のこの絵も持っていただいておりました。ということで、プロデュースされた河嶋淳司さん(芸大の同級生です^^;)、千住博さん、福本正さん、福井江太郎さんの作品の中に入れていただいての展示です。 ご覧いただけましたら幸いです。 +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 永井画廊の次回展覧会は2026年1月 第2回「現代日本画10人展」河嶋淳司、北田克己、斎藤典彦、武田州左、鳥山玲、間島秀徳、森山知己、八木幾朗、柳沢正人 の出品です。(今回・岡村桂三郎さんの展示はありません) 2026年1月9日(金)から23日(金)の会期です。10:00〜18:00 日曜・祝日曜休廊...

倣日月四季山水図屏風制作のまとめ

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  2025年 大阪天野山金剛寺様の所蔵する国宝 日月四季山水図の倣作を 令和7年度 今治市大三島美術館企画展 森山知己 和様に倣う 展で発表させていただくことができました。制作の経緯、また気づきなど。 太陽の描かれた右隻の倣作を2022年に行いました。   倣日山水図制作 10/23//2022  材料技法 2020年8月、縁あって天野山金剛寺の国宝「日月四季山水図屏風」を実見させていただく機会をいただきました。作者不明ながら多くの方々、先人が日本らしい絵画として認めていた絵画です。私も1989年東京国立博物館で開催された<「国華」創刊100周年記念特別展 室町時代の屏風展>で拝見して以来、ずっと気になり好きな絵画でした。 2025年2月、左隻の制作をスタートさせました。 屏風は、2022年に制作した折に用いた屏風の対となるものです。 屏風の大きさ、縦横比も実物と違うため、制作に用いる屏風に合わせてニュアンスがなるべく変わらないように構図、描き方を変更した小下図を作成しました。 原寸大の大下図は作らず、小下図をもとに実物の屏風に直接木炭で当たりをとって拡大し写しました。 木炭の当たりを手がかりに墨描きを行いました。実物の画面のトーンを手がかりに墨による明暗も加えています。また波の線などは当たりのみに止め墨描きは行っていません。 墨描きの終わった状態です。銀箔を貼る予定の空、銀箔の穴開き、月とのコントラストも考え薄墨をベースとして塗っています。波線と同様に松の幹なども墨描きはせず、木炭の当たりのままにしています。銀箔に隠れるはずの雪山の松も同様です。 空を除いた部分に黄土+胡粉+墨の地塗りを行っています。はたして昔描かれた当時の地塗りがこのようであったかはわかりません。おそらく実物はより淡い色合いであったと思います。 下塗りを行っている様子です。 下図作り> 墨描き > 地塗り > 下塗り ここまでの作業を終えたところで、Webに倣作の記事をアップすることにしました。 「下塗り」などの制作のプロセスについては、 「無い」から始める日本画講座  をご参照ください。基本的にこのプロセスで作業を解釈し対応しています。 また、松の形や描法、雪山、滝などの処理などに対する考え方は、以下記事を参照ください。 日本の肖像画 7/26//2010  材料技法   日本画の基...