「日月山水図屏風」左隻の倣作 その⑧


 屏風右上方の雪山、雪をいただいた木々を描きこみ、続いて左上方緑濃い山の描写を行いました。盛り上げと銀箔による水の流れ、それがどのようなところを通って海に至るのか。生の群青、少し酸化をさせて渋くした松葉緑青によって描き進め、滝として海に注ぐところまで。

窓の外に広がる現実世界は、新緑から緑濃い初夏に変わっていこうとしています。西洋的なリアリズムによるそれではなく、日本画の画材、限られた色数しかない天然材料、色料ではあるのですが、こうして昔ながらの描法で描き進めていると、この国の自然の姿、色合いと見事に調和するように思うのです。かつての先人たちもそこに魅力、実感を見つけたのかもしれません。


雪山、雪の積もった松などの木々。盛り上げ技法によって立体感をもった雪は、光線の具合によって松の緑に微妙な陰影をもたらします。これも実際に描いたから実感できる世界。

控えめな紅葉の色合いが樹間にあります。山の緑も夏を描いた右隻に比べて少し黄色みを帯びたものとして仕上げました。これも粒子がある程度ある緑青によるものなので、画面を立てて見ると、この寝かせて描いている状態とは色味
が違って見えます。

手前の岩礁、松の小さな枝先、幹、そして松葉。下塗りの終わった上に、上絵の具を乗せていきます。どの程度の緑の深さにするかが試されるところ。手本とする絵画が、実際に描かれた当初、どのような色合い、仕上がりであったのか。使われた材料、描法によってある程度は推測できるにしろ、私が今の時代に描くことによる解釈、生きた制作、表現になるように、筆の動かし方、色の選択、響きを見つけようと試みます。


まずは、銀箔による砂浜らしき陸地に生えた松。岩礁を描き進めます。それらに一通り上塗り、仕上げの色が入ったら、本物に見ることが出来る、金泥による描きこみや、水の飛沫の表現、滝の傍らにある植物の葉など、描き加えます。

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